〔鉛のいろの冬海の〕

   

   鉛のいろの冬海の

   荒き渚のあけがたを

   家長は白きもんぱして

   こらをはげまし急ぎくる

   

   ひとりのうなゐ黄の巾を

   うちかづけるが足いたみ

   やゝにおくるゝそのさまを

   おとめは立ちて迎へゐる

   

       南はるかに亘りつゝ

       氷霧にけぶる丘丘は

       こぞはひでりのうちつゞき

       たえて稔りのなかりしを

   

   日はなほ東海ばらや

   黒棚雲の下にして

   褐砂に凍てし船の列

   いまだに夜をゆめむらし

   

   鉛のいろの冬海の

   なぎさに子らをはげまして

   いそげる父の何やらん

   面にはてなきうれひあり

   

   あゝかのうれひけふにして

   晴れなんものにありもせば

   ことなきつねのまどひして

   こよひぞたのしからましを