月天讃歌(擬古調)

   

   兜の尾根のうしろより

   月天ちらとのぞきたまヘり

   

   月天子ほのかにのぞみたまへども

   野の雪いまだ暮れやらず

   しばし山はにたゆたひおはす

   

   決然として月天子、

   山をいでたち給ひつゝ

   その横雲の黒雲の、

   さだめの席に入りませりけり

   

   月天子まことはいまだ出でまさず

   そはみひかりの異りて、

   赤きといとど歪みませると

   

   月天子み丈のなかば黒雲に

   うづもれまして笑み給ひけり

   

   なめげにも人々高くもの云ひつゝ

   ことなく仰ぎまつりし故、

   月天子また山に入ります

   

      兜の尾根のうしろより

      さも月天子

      ふたゝびのぞみ出でたまふなり

   

   月天子こたびはそらをうちすぐる

   氷雲のひらに座しまして

   無生を観じたまふさまなり

   

   月天子氷雲を深く入りませど

   空華は青く降りしきりけり

   

   月天子すでに氷雲を出でまして、

   雲あたふたとはせ去れば

   いまは怨親平等の

   ひかりを野にぞながしたまへり