幻想

   

   濁みし声下より叫ぶ

   炉はいまし何度にありや

   八百とえらいをすれば

   声なくて炭を掻く音

   

   声ありて更に叫べり

   づくはいまし何度にありや

   八百とえらひをすれば

   またもちえと舌打つひゞき

   

   灼熱のるつぼをつゝみ

   むらさきの暗き火は燃え

   そがなかに水うち汲める

   母の像恍とうかべり

   

   声ありて下より叫ぶ

   針はいま何度にありや

   八百といらひて云へば

   たちまちに楷を来る音

   

   八百は何のたはごと

   汝はこゝに睡れるならん

   見よ鉄はいま千二百

   なれが眼は何を読めるや

   

   あなあやし紫の火を

   みつめたる眼はうつろにて

   熱計の針も見わかず

   奇しき汗せなにうるほふ

   

   あゝなれば何を泣けるぞ

   涙もて金はとくるや

   千二百いざ下り行かん

   それいまぞ鉄は熟しぬ

   

   融鉄はうちとゞろきて

   火花あげけむりあぐれば

   紫の焔は消えて

   室のうちにはかにくらし