講后

   

   いたやと楢の林つきて、

   かの鉛にも続くといへる、

   広きみねみち見え初めたれば

   われ師にさきだちて走りのぼり、

   峯にきたりて悦び叫べり

   江釣子森は黒くして脚下にあり、

   北上の野をへだてゝ山はけむり、

   そが上に雲の峯かゞやき立てり。

   人人にまもられて師もやがて来りたまふに

   みけしき蒼白にして

   単衣のせなうるほひ給ひき

   われなほよろこびやまず

   石をもて東の谷になげうちしに

   その石遙か下方にして

   戛として樹をうち

   また茂みを落つるの音せりき

   師すでに立ちてあり、

   あへぎて云ひたまひけるは、

   老鶯をな驚かし給ひそとなり

   講の主催者粛として立ち

   われまた畏れて立ちつくせるに

   人人〔一字不明〕かずつかれて多くはたゞずめりき

   しかはあれかの雲の峯をば

   しづかにのぞまんはよけんと

   蕗の葉をとりて地に置けるに

   講の主催者

   その葉を師に参らせよといふ

   すなはち更に三葉をとって

   重ねて地にしき置けるに

   師受用して座しましき