〔秘事念仏の大師匠〕〔一〕

   

   秘事念仏の大師匠、    元真斉は妻子して、

   北上岸にいそしみつ、   いまぞ昼餉をしたゝむる。

   

   卓のさまして緑なる、   小松と紅き萓の芽と、

   雪げの水にさからひて、  まこと睡たき南かぜ。

   

   むしろ帆張りて酒船の、  ふとあらはるゝまみまじか、

   をのこは三たり舷に、   こちを見おろし見すくむる。

   

   元真斉はやるせなみ、   眼をそらす川のはて、

   塩の高菜をひた噛めば、  妻子もこれにならふなり。