〔あな雪か 屠者のひとりは〕

   

   「あな雪か。」屠者のひとりは、  みなかみの闇をすかしぬ。

   

   車押すみたりはうみて、      えらひなく橋板ふみぬ。

   

   「雉なりき青く流れし。」      声またもわぶるがごとき。

   

   落合に水の声して、        老いの屠者たゞ舌打ちぬ。