月のほのほをかたむけて、 水杵はひとりありしかど、
搗けるはまこと喰(は)みも得ぬ、 渋きこならの実なりけり。
さらばとみちを横ぎりて、 束せし廐肥の幾十つら、
祈るがごとき月しろに、 朽ちしとぼそをうかゞひぬ。
まどろむ馬の胸にして、 おぼろに鈴は音をふるひ、
山の焼畑 石の畑、 人もはかなくうまゐしき。
人なき山彙(やま)の二日路を、 夜さりはせ来し酉蔵は、
塩のうるゐの茎噛みて、 ふたゝび遠く遁れけり。
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