〔腐植土のぬかるみよりの照り返し〕
腐植土のぬかるみよりの照り返し、 材木の上のちいさき露店。
腐植土のぬかるみよりの照り返しに、 二銭の鏡あまたならべぬ。
腐植土のぬかるみよりの照り返しに、 すがめの子一人りんと立ちたり。
よく掃除せしラムプをもちて腐植土の、 ぬかるみを駅夫大股に行く。
風ふきで広場広場のたまり水、 いちめんゆれてさゞめきにけり。
こはいかに赤きずぼんに毛皮など、 春木ながしの人のいちれつ。
なめげに見高らかに云ひ木流しら、 鳶をかつぎて過ぎ行きにけり。
列すぎてまた風ふきてぬかり水、 白き西日にさゞめきたてり。
西根よりみめよき女きたりしと、 角の宿屋に眼がひかるなり。
かっきりと額を剃りしすがめの子、 しきりに立ちて栗をたべたり。
腐植土のぬかるみよりの照り返しに 二銭の鏡売るゝともなし。