そは一ぴきのエーシャ牛、 夜の地靄とかれ草に、 角をこすりてたわむるゝ。
窒素工場の火の映えは、 層雲列を赤く焦き、
鈍き砂丘のかなたには、 海わりわりとうち顫ふ、
さもあらばあれ啜りても、 なほ啜り得ん黄銅の
月のあかりのそのゆゑに、 こたびは牛は角をもて、音高く
柵を叩きてたはむるゝ。
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