来々軒

   

   浙江の林光文は、      かゞやかにまなこ瞠き、

   そが弟子の足をゆびさし、  凛としてみじろぎもせず。

   

   ちゞれ雲西に傷みて、    いささかの粉雪ふりしき、

   警察のスレートも暮れ、   売り出しの旗もわびしき。

   

   むくつけき犬の入り来て、  ふつふつと釜はたぎれど、

   (ぬか)青き林光文は、      そばだちてまじろぎもせず。

   

   もろともに凍れるごとく、  もろともに刻めるごとく、

   雪しろきまちにしたがひ、  たそがれの雲にさからふ。