暁眠
微けき霜のかけらもて、 西風ひばに鳴りくれば、
街の燈(あかり)の黄のひとつ、 ふるえて弱く落ちんとす。
そは瞳(まみ)ゆらぐ翁面(をきなめん)、 おもてとなして世をわたる、
かのうらぶれの贋(いか)物師、 木藤(どう)がかりの門(かど)なれや。
写楽が雲母(きら)を揉み削(こそ)げ、 芭蕉の像にけぶりしつ、
春はちかしとしかすがに、 雪の雲こそかぐろなれ。
ちいさきびやうや失ひし、 あかりまたたくこの門に、
あしたの風はとどろきて、 ひとははかなくなほ眠るらし。