崖下の床屋
あかりを外(そ)れし古かゞみ、 客あるさまにみまもりて、
唖の子鳴らす空(から)鋏。
かゞみは映す崖のはな、 ちさき祠に蔓垂れて、
三日月凍る銀斜子(ななこ)。
沍たつ泥をほとほとと、 かまちにけりて支店長、
玻璃戸の冬を入り来る。
のれんをあげて理髪技士、 白き衣をつくろひつ、
弟子の鋏をとりあぐる。