北海道の旅(1)

 ゆうべは遅くまで荷づくりをしたり、「旅のしをり」をつくったり、ガイドブックを眺めたりしていたので、 寝たのは今朝明るくなってからでした。

 関西空港を14時55分の飛行機に乗り、機内では本ばかり読んでいたのですが、 飛行機が高度を下げはじめたのに気づいてやっと窓の外を見ると、眼下にはサロベツの原野が広がっていました。
 稚内空港に降りるともう夕暮れが近づいていたので、急いでタクシーに乗って宗谷岬を目ざしました。途中、宗谷海峡の海は湖のように静かで、 浅瀬では水鳥がシルエットになって歩いているのも見えます。太陽はほとんど雲にかくれているのですが、 時おりそのすきまから光線が洩れてきて、水平線のあたりを照らしました。

 宗谷岬にはあいにく雲がたれこめて、今日はサハリンまで見渡すことはできませんでした。しかし、いかにも「さいはての地」 という風情がいっぱいで、目の前は際限なく灰いろの海と空がつづきます。「日本最北端の地」という碑の前では、 まるでカラオケのマイクを奪い合うように、みんな順番に台の上に立って写真を撮り合っていました。

 岬から少し丘を登ると、展望台の横に、賢治の「宗谷〔二〕」の詩碑がありました。 眼前の景色と同じ茫洋とした雰囲気で、「はだれに暗く緑する/ 宗谷岬のたゞずみと/北はま蒼にうち睡る/サガレン島の東尾や」 との詩句が刻まれています。賢治は、宗谷岬を訪れたわけではありませんが、 これは宗谷海峡を渡る連絡船からの情景なのでしょう。

 あたりはしだいに暮れなずみ、稚内市街の方へ戻る車中では、運転手さんが 「晴れていたらちょうど利尻富士が夕焼けといっしょに見えるのに… それは絵のような景色ですよ…」としきりに残念がってくれたのですが、 それでも水平線の近くではだんだん雲が切れてきて、赤い夕日がノシャップ岬の向こうに顔を出しました。明日は晴れるのかもしれません。