岩手紀行(6)

 今回の旅行の最終日です。朝食後、花巻温泉から川の方へ遊歩道を降りて、「釜淵の滝」を見ました。農学校教師時代の短篇、「台川」 の舞台です。

 花巻温泉に関しては、教え子に頼まれて植樹の助言をしたり、花壇を設計したり、賢治もいろいろとかかわっていますが、 このような遊興施設に対して一面ではかなり否定的な思いもいだいていたことは、 一昨年にも「冗語」詩碑へのコメントで触れました。 複雑な心境だったのだろうと思います。 のん気に泊まっている私も、複雑です。

 さて、最終日でスケジュールがこまごまと詰まっています。まずバスで温泉街をあとにして、新花巻から新幹線に乗り、 一ノ関で大船渡線に乗り換え、東山町にある「石と賢治のミュージアム」に向かいました。去年、 建物の前まで行きながら、休館日のために入れなかった所です(去年の記事はこちら)。
 館内には「東北砕石工場時代」の賢治について、いろいろな資料がありましたが、それにしてもこの時期の彼の行動や書いたものには、 どうしても痛ましさがつきまといます。工場の跡地には、この頃の賢治の思いを象徴するような、「あらたなる/よき道を得しといふことは/ ただ あらたなる/なやみの道を得しといふのみ」という詩碑が、建てられていました。

 ところで、ミュージアムからすぐ近くの東北砕石工場跡に、地元の農家の方がやっておられる「ひまわり」 という小さな軽食処がありました。そこで昼ごはんを食べたのですが、この食事がたいへんによかったので、 ここに特記させていただきます。 「冷やし切りむぎうどんセット」というのを頼んだのですが、店で手づくりのコシのある細うどん(打ちたてのゆでたて)に、 味噌を塗った焼きおにぎりや、炊き合わせ、酢の物などがついて、500円でした。もしも東山町を訪ねる方がありましたら、 ぜひ立ち寄ってみられることをお勧めします。

 閑話休題。昼食が終わると、陸中松川駅からまた大船渡線で一ノ関に戻り、このあとは前沢町、北上市と、 駆け足で残りの詩碑をまわりました。 前沢町では、上野原小学校という高台の小さな学校の校庭に、碑はありました。北上市の 「和賀川グリーンパーク」という広々とした河川敷の公園では、『冬のスケッチ』からの一節を刻んだ石碑が見られました。

 さてこれで、今回の旅行のすべての予定は終わりです。去年につづいて、帰りの新幹線は北上駅からの乗車です。これも去年と同じく、 北上駅構内の「こけし茶屋」という食堂で「海鮮丼のお持ち帰りミニ弁当 (380円)」というのを買って、「やまびこ」に乗り込みました。 (これもふつうの駅弁を買うより、断然おすすめです。)
 このあと新幹線に6時間ほど揺られて、大文字の送り火の消えた京都に帰り着いたわけです。夜半というのに、 電車を降りると暑さがむっときました。